スポーツ庁委託事業 女性アスリートの育成・支援プロジェクト「女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究」の一環として、2018年2月18日(日)に『平成29年度 女性アスリートのための研究会』を行いました。
〔会場:コングレスクエア日本橋 2FホールA・B〕

2018/3/30

開会の挨拶

藤井 知行 先生
(東京大学産婦人科学教授)



午前の部

座長:
鳥居 俊 先生
(早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学学術院准教授)

平池 修 先生
(東京大学産婦人科学准教授)



無月経アスリートの内分泌動態

平池 修 先生
(東京大学産婦人科学准教授)

近年のライフスタイルの変化に伴い女性が生涯で経験する月経は著しく変化した。出産回数の減少等により1900年頃の160回と比較して、現代女性は450回と約3倍近くも月経を経験することになっている。それに伴い月経随伴症状や月経困難症、子宮内膜症など月経に伴う疾患も増加している。また、過剰なダイエットや運動によるカロリー量摂取不足は、初経の遅発や様々な月経障害の原因となっており、女性アスリートにおける利用可能エネルギー不足、骨粗鬆症、視床下部性無月経は三主徴として広く知られるようになった。視床下部性無月経は黄体化ホルモンの分泌障害と強く関連している。東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科では女性アスリート外来を2017年4月より開設し、無月経を中心とした月経関連症状のみならず、子宮内膜症など身体的不調に悩むアスリートの診断と治療を行っている。


Female Athlete Triad

能瀬 さやか 先生
(東京大学産婦人科学)

女性アスリートに多い健康問題として、「利用可能エネルギー不足」、「無月経」、「骨粗鬆症」が挙げられ、これらは「女性アスリートの三主徴」と呼ばれている。また、これらの三主徴を有するアスリートでは、疲労骨折のリスクが約2~7倍高まることが報告されている。我々が行った低骨量/骨粗鬆症の関連因子についての調査では、①10代で1年以上無月経を経験していること、②低体重であることが骨量低下に影響している因子であることが明らかとなった。アスリートの低骨量/骨粗鬆症に対する治療法は少なく、10代からの三主徴の起点である利用可能エネルギー不足の予防が重要である。


low energy availabilityによる無月経の栄養アセスメントと栄養指導

小清水 孝子 先生
(大妻女子大学家政学部教授)

女性アスリートは、減量のための極端な食事制限、練習量の増加によるエネルギー消費量の増加などにより、low energy availability状態に陥り、無月経のリスク要因となる。
特に、エネルギー源となる糖質の摂取が不足する傾向にあるので、栄養アセスメント(食事調査、活動量調査、身体計測、血液検査、食環境要因など)の結果を基に、運動量に見合った栄養補給量を設定する。そのうえで、食事内容を見直し、月経状況や体組成などをモニタリングしながら栄養補給量を調整し、栄養指導・教育を実施していくことが必要である。


女性アスリートの摂食障害

山口 聖子 先生
(北里大学医学部助教)

女性アスリートにみられる摂食障害は、精神的要素と社会文化的要素が大きく関わる。理想と現実との乖離を感じた時に起こりやすく、心身のバランスを取り戻すために精神症状が出現する。完璧主義や、落ち込みやすい選手に起こりやすい。特に女性アスリートは心身のつながりが強く、心身を切り離してトレーニング負荷に耐えようとすることから「ゆがんだ自己表現」につながり、摂食障害に発展していきやすいと考えられる。予防が重要であり、競技人生だけではないアイデンティティの確立をサポートすること、症状が発現する前に選手が話せる環境を作る必要がある。


ランチョンセミナー

座長:
大須賀 穣 先生
(東京大学産婦人科学教授)



レスリングを通して経験した体の変化

小原 日登美 先生
(自衛隊体育学校 / ロンドンオリンピックレスリング 金メダリスト)


女性アスリートの声~経験の中で感じた問題点~

辻 沙絵 先生
(日本体育大学大学院 / リオパラリンピック陸上 銅メダリスト)


午後の部

座長:
原田 美由紀 先生
(東京大学産婦人科学講師)

能瀬 さやか 先生
(東京大学産婦人科学)



パラアスリートが抱える女性特有の問題

能瀬 さやか 先生
(東京大学産婦人科学)

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科と日本パラリンピック委員会は、H29年度パラアスリート98名を対象に女性特有の問題に対すアンケート調査を実施した。その結果、パラアスリートでは、月経周期異常は少なく、出産経験者や更年期症状を抱えるアスリートの割合が高い結果となった。当科では、H29年度より日本パラリンピック委員会と連携し、HPで障がい者女性アスリート専用相談窓口を設けるなど、パラアスリートへの対策を進めている。


妊娠・産後の腹筋群の形態的変化

深野 真子 先生
(早稲田大学スポーツ科学学術院助教)

妊娠期から出産後にかけて腰痛は比較的多く見られ、アスリートを対象とした調査では約10%が出産後に腰痛を経験したと報告されている。腹筋群はその収縮により腹腔内圧を高める機能を有し脊柱の安定性に寄与するが、妊娠期には腹囲の増加に伴い伸張され、出産により急激な張力低下が起こり、出産後十分に力発揮できない状態がしばらく続くと考えられている。そのため妊娠中から産後6ヶ月に渡り縦断的に腹筋群の形態と機能を調査し、産後は筋の形態的な回復が起こるが、収縮機能が低下している可能性を報告した。


男女の筋・骨格・キネマティクスの違いとスポーツ障害

武冨 修治 先生
(東京大学整形外科講師)

スポーツ障害・外傷発生の部位・頻度には男女差がある。これは筋力や筋量、骨格やアライメント、また着地動作などのキネマティクスの男女の違いによるといえる。例えば膝前十字靱帯は女性アスリートで損傷リスクが高いが、これには、女性では下肢アライメントが外反であること、脛骨後方傾斜が大きいこと、スポーツ動作中の膝外反が大きく、股関節の屈曲運動が小さいことなどが関与していると考えられる。スポーツ障害・外傷の予防の際もこのような男女差に注目したプログラムを立てる必要がある。


OC・LEP服用前後のパフォーマンスの変化

中村 真理子 先生
(国立スポーツ科学センタースポーツ科学部)

月経困難症や月経前症候群などの症状を呈する女性アスリートは比較的多い。これらの症状改善を目的として経口避妊薬(OC)・低エストロゲン・プロゲスチン(LEP)配合薬、いわゆる低用量ピルが使用されることがある。我々は、OC・LEPを服用した際の運動パフォーマンスの変化について縦断的に検討した。その結果、OC・LEP服用による運動パフォーマンスの低下は認められなかった。女性アスリートにおいて、OC・LEP服用は月経対策の選択肢の一つになり、コンディショニングの一助として活用できる可能性がある。




閉会の挨拶

大須賀 穣 先生
(東京大学産婦人科学教授)